南インド・カーンチープラム&チェンナイ

カーンチープラム
 今日は私の旅にしてはハードスケジュールである。朝、タンジャーヴールのホテルをチェックアウト、バスで『カーンチープラム』に向かい、荷物を預けて市内観光。そこから、『マーマッラプラム(マハーバリプラム)』に移動して市内観光、さらに20時30分発の夜行寝台列車(16178 Rockfort Express)で『チェンナイ』に向かう予定である。
 それでは、タンジャーヴールのホテルをチェックアウトしてカーンチープラムに向かいましょう。ここタミル・ナードゥ州のカーンチープラムは、ヒンドゥー教7大聖地の一つであり、7~8世紀に栄えたパッラヴァ朝の残した古都であったことからシヴァ神やヴィシュヌ神を祀る多くの寺院が残っている。
 最初は8世紀初頭のパッラヴァ朝時代に造られた『カイラーサナータ寺院』を訪ねる。この寺は、カーンチープラムで最も美しい寺院の一つとされ、後で訪ねる『マーマッラプラム(マハーバリプラム)』の『海岸寺院』が原型と言われている。本堂にはシヴァ神が祀られており、また50以上の小祠堂が外壁および回廊を構成している。小祠堂の浮き彫りに塗られた漆喰は後代のものである。

初期のドラヴィダ様式と言われるカイラーサナータ寺院は、パッラバ朝時代の8世紀初めに建立された。カーンチープラムで最も美しい寺院と言われる
寺に入るには土足厳禁である
パラヴァ王のシンボルであるライオンの彫刻が施されている
初期のドラヴィダ様式と言われるカイラーサターナル寺院。カーンチプラム最古の寺院である
シヴァ神を祀るカーンチープラム最大の『エーカンバラナータル寺院』のゴープラム。高さ60メートルと巨大である。カーンチープラムでは比較的新しい16世紀~17世紀の建築である。本堂を囲む136本のリンガがあるそうだ。数えていません
思わず手振れしちゃいました?
カイラーサナータ寺院とほぼ同じ8世紀に造られたヴィシュヌ神を祀るヴァイクンタ・ペルマール寺院
ヴァイクンタ・ペルマール寺院の回廊の壁面に施された彫刻。当時の人々の暮らしを偲ばせる彫刻もある

カーマークシ・アンマン絹織物集落
 カーンチープラムのバススタンド付近でおしゃれなTシャツを着たイタリア人の青年に声をかけられた。ナポリ近郊で織物会社を経営しているそうだ。彼はこれから家内経営の織布工や染色工が集まった絹織物集落を訪ねるという。誘われたので、もちろん大喜びでご一緒することにした。サイクルリクシャーで南側へ約20分、彼の言うように小さな工場が集まった集落であった。
 彼は専門家であるから実に知識が広くかつ深く、ここを訪ねる第一の目的は、「バラタナーティヤム」の踊り子の衣装製作の現場を見ることであった。解説書も持っている。彼の説明で初めて知ったのであるが、簡単に言うと、(深く言えるほど知識が無いのだが、)「バラタナーティヤム」とは、3000年以上の歴史を持つとされる舞踊のことで、元々、神に奉納する舞踊であったため、一般に公開されることはなかったという。また、「デバダシ」と呼ばれる日本でいうところの巫女が踊り手となっていたことから、「現在のように男性の舞踏家はいなかった」(お店の人の説明)そうだ。
 「もう一つ。カーマークシ・アンマン集落に来たからには、ここの寺の人気者に会って行ってください」。「人気者?」。「そう、でも人じゃありません」。ここのカーマークシ・アンマン寺院には思わぬ動物がいて人気を集めているのである。象である。

カーンチープラムの中心にあるカーマークシ・アンマン寺院
カーマークシ・アンマン寺院にいる人気の象。実にユーモラスである

マハーバリプラム
 カーンチープラムのブラブラを終えて、次はリゾート地として人気のある『マハーバリプラム(マーマッラプラム)』に向かう。「リゾート地」と言われるようになったのは最近のことで、実はこの地は7世紀頃にはインド洋、アラビア海を越える東西交易の基軸として栄え、8 世紀初頭にはパッラヴァ朝の王ラージャシンハによって建設された寺院などがあることで有名なのである。「マハーバリプラムの建造物群」として数多くの遺跡がユネスコの世界遺産に登録されている。

海岸寺院
 マハーバリプラムのバススタンドから約500メートル、徒歩10分で「海岸寺院」に着く。マハーバリプラムの砂浜に建てられたことから、この名が付けられ、1984年に世界遺産に登録されている。ドラヴィダ建築とでも言うか、石積みの石造技術によって建てられた寺院は今まで見てきた南インド各地の派手な寺院とは違って、均整の取れた、むしろ地味な雰囲気をもってベンガル湾に佇んでいる。そして、ピラミッド型の塔の繊細な装飾や層状の屋根の見事な彫刻が印象的である。

海岸寺院

ファイブ・ラタ
 7世紀の半ばに造られた「ファイブ・ラタ」と呼ばれる「5つの石彫り寺院」がある。俄かには信じられないが、実はこの寺院は一つの巨大な花崗岩から彫りだされた巨大彫刻なのである。この建造物全体は、元々は砂に埋もれていたものが掘削されて現在の姿が表に出たもので、5つそれぞれが特徴を持つ寺院である。
 ところで、インドの二大叙事詩「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」はご存知ですね?TV番組やドラマになっているインド神話のお話です。この2篇の叙事詩は、グプタ朝時代にサンスクリット語で書かれて完成されたものである。
 注);「サンスクリット語」については、別途、項を改めなければならないほど、深くかつ重要な項目で、浅学の私が論じるには荷が重すぎるので、ここでは「南アジアや東南アジアにおいて、学術、哲学、宗教などの分野で用いられた古代語」とだけ記しておきます。
 話を「マハーバーラタ」に戻しましょう。マハーとは“偉大な”、バーラタとは“バーラタ国”のことで、現在でもインドの正式国名とされているが、普段は、「バーラタ族の物語」という意味で使われている。繰り返しになるが、「ラーマーヤナ」とともにインド二大叙事詩と称され、ご存知のように「イーリアス」、「オデュッセイア」とともに世界三大叙事詩の一つともされている。
 「ファイブ・ラタ」の説明なのに、「マハーバーラタ」に寄り道をしたが、その理由は「ファイブ・ラタ」のそれぞれに「マハーバーラタ」の登場人物の名前が付けられているからである。叙事詩に興味のある方は、「ファイブ・ラタ」の画像から「マハーバーラタ」に思いを寄せてください。

最初は、ナクラ・サハデーヴァ・ラタである
左から、ドラウパディー・ラタ、アルジュナ・ラタ、ビーマ・ラタ、ダルマラージャ・ラタ
4層の階段状屋根を持ち、1番背が高いダルマラージャ・ラタのズームアップ。浮彫り彫刻に魅せられる
三層屋根のアルジュナ・ラタのズームアップ(右)。周りに配置され象の彫刻が見える(中央部分)

クリシュナのバターボー
 物理学の話である。均質な材料でできている球体を斜面に置いたら、マイナス勾配の方へ回転しながら移動するであろう。球体と面との接点は点であるから微風でも動くであろう。さて、中途半端な力学はこのへんにして、巨大な丸い岩が坂の途中にあるにもかかわらず止まってる(ように見える)。直径約10メートルの『クリシュナ神のバターボール』の登場である。クリシュナ神の好物であるバターボールに似ていることから、このニックネームが付いているそうだ。

クリシュナ神の好物であるバターボールに似ていることから「クリシュナ神のバターボール」と呼ばれる。かつて象を使って引いたが動かなかったという。
裏側から見たクリシュナのバターボール。バターボールをナイフで切ったように見える
パンチャパーンダパ・マンダパ窟
パンチャパーンダパ・マンダパ窟の壁画
パンチャパーンダパ・マンダパ窟の壁画。乳しぼり

チェンナイへ
 “評判の良くないインドの鉄道”に乗ってみた。予想がはずれて?インドの夜行寝台列車にしてはそれほど遅れず、今朝、15分ほど遅れて朝の5時半頃にチェンナイに到着、ここからローカル線に乗ってエグモア駅とパーク駅の中間にあるホテルに向かう。どちらで降りても同じ距離だと駅員に教えられたので、根拠もなくパーク駅で降りた。徒歩で25分と結構な距離であった。6時半頃にホテルに着いたので、チェックインはせずに荷物を預けてその辺をブラブラしようと思ったのだが、スタッフは「このホテルは24時間制だ」と言う。何度か聞き直して理解できた。6時半にチェックインしたら、翌日の6時半前にチェックアウトしなければ、追加料金を払わなければならない。でも、すぐにチェックインしてシャワーを浴びられるので「こりゃぁ、最高だ」と考えて「OK」したのだが、よく考えて見れば明日の朝に6時半前に起きなければならない。結果的にゆっくりと休めないので損をした感じであった。爾来(じらい)、この種のホテルには泊まらないことにしている。
 チェンナイは南インドへの入口ともいうべき大きな町で、タルミナードゥ州の州都であることから行政、経済分野ともに中心的役割を果たしている都会である。確かに1639年に英国の東インド会社をここに設立し、そのオフィスを基地にして南インド全域をコントロールした過去を持つわけで、その経験と力量は今も衰えていない。
 ドラヴィダ文化、つまり、イスラームの影響を受けていない文化を持つ地域で、デリーの中央権力、北のアーリア文化と対峙する、一種の矜持ともいうべき魂を持っている人々である。マドウライで、『ATMお助けマン、N氏』に助けてもらったこともあって、私自身も気合が入っている。「ドラヴィダ文化」じっくり味わいたい。

チェンナイのヴィクトリア・ホール(工事中)
インド人が書籍を見ている姿は、なんとなく哲学者に見える
中央駅。屋根の色が白、茶の建物
鉄道の本社
地下道
チェンナイ中央駅
郵便ポスト
高等裁判所(法律専門学校)
工事中
寺院付属のタンク(沐浴池)から見たカーパレーシュワラ寺院。シヴァ神を祭ったヒンドゥー教建築の門(ゴープラム)がピラミッド型の塔になっており、さらに外面には鮮やかな彫刻が施され、装飾の色彩と相俟って南国的雰囲気が漂う。入場する時には裸足であることが要求されることから、その習慣のない日本人には相当きつい。足の裏が熱いー。
パルタナラティ寺院の西門から
パルタサラティ寺院も土足禁止であり、中は撮影禁止である
パルタサラティ寺院からインド洋を撮る
インド洋で遊ぶ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です